増える飢餓人口と日本のODAの大きな変化

国際社会は、2015年までに達成すべき8つの目標として「ミレニアム開発目標(MDGs)」というものを掲げています。このなかに「極度の貧困と飢餓の撲滅」を唱い、ターゲット2として「2015年までに飢餓に苦しむ人口の割合を1990年の水準の半数に減少させる」と目標にしています。

しかし、世界食糧計画(FAO)の年次報告書「The State of Food Insecurity in the World (SOFI)」(右画像)によると、1990-92年の基準と比べると、8億2300万人から僅か300万人少ない、8億2000万人が今なお飢餓に苦み栄養失調状態にあり、それどころか、世界食糧サミットが開催され、1996年と比べるとそれは2000万人増えているそうです(FAO"World hunger increasing: FAO Head calls on world leaders to honour pledges")。そして、上の目標を達成するには毎年3100万人ずつ減少させる必要があると。それが如何に困難かはこの数字を見ていてもよく分かります。

このプレスリリースによると、一方でアジア・太平洋地域や中南米地域では、この栄養失調人口は減っているものの、サハラ以南アフリカを見てみると、1990-92年と比べて約4000万人増えて2億600万人に到達しているそうです。この問題を解決するために必要だとされていることのひとつが、先進国がODA(政府開発援助)の拠出を増加させることです。具体的にはODA拠出額をGNPの0.7%にすることを求めています。この数字は、1970年の国連総会で採択され、その後も地球サミットモンテレイで行われた開発資金国際会議などでも求められています。しかし、日本をはじめ、多くの国がまだこの目標を達成できていません。それでも他の先進国はODA増額の方向性を見せているのですが、日本では増やすどころか減らす方向に動いています。

そんななか、行政改革のひとつとして、日本のODAの仕組みに変化が起きようとしています。

改正JICA法が成立
 国際協力銀行円借款業務と外務省の無償資金協力の一部を国際協力機構(JICA)に移管・統合することを定めた国際協力機構法改正案は8日午前の参院本会議で全会一致で可決、成立した。政府が進める政策金融改革の一環で、これにより政府開発援助(ODA)の実施体制が一元化された。

これまで大きくは外務省、JICA、JBIC(国際開発銀行)の3つに別れていたODA実施体制がひとつになりました。これを受けて、緒方貞子JICA理事長は「JICAは、文字通りODAの総合的な実施機関として生まれ変わることとなり、政府の政策を受け、援助のさまざまな手法を駆使して開発途上国の開発および社会の安定に資する協力を展開していきたい」と語っています(JICAニュースリリース)。

改正JICA法がどのようなものか、まだ明らかになっていないため、今後よりきちんと見る必要がありますが、この改正自体が、行政改革のひとつであることから、いわゆる「効率」という側面のみがクローズアップされている懸念があります。つまり、世界のさまざまな問題を解決するために日本のODAが何ができるか?という議論ではなく、国内の非常に限られた被援助アクターを無視したものになっているだろうという危険性があります。同時にさまざまな問題を抱えた円借款(有償資金援助。JBICが担当していたところ)が、かなりの程度この「効率」の部分でフリーハンドを与えられるという話もありますので、より一層、この動きを見守る必要がありそうです。

もちろん、ただODAの額を増やせばいいわけではありません。量より質であるのは間違いありませんが、そこに「効率」だとか「国益」だとかいった、開発援助の名においては矛盾するものとは異なった現場で生き、生活する人々の姿をみながらのODAが必要であることには変わりはなく、そこでNGOが果たすべき役割もまた大きいと思います。

ちなみにODAといえば、こんな記事もありました。

プロジェクトX:中国で放映へ ODAで無償提供
 日中両国は7日、日本が人気ドキュメンタリー「プロジェクトX」など360番組に関する放映権を中国に無償提供することで合意、文書に調印した。
 北京の日本大使館によると、提供されるのはすべてNHKの番組で、中国側は翻訳作業を経た上で、国営教育テレビで来年にも放映を開始する見通し。調印式に出席した宮本雄二駐中国大使は「テレビを通じ、より多くの中国の方々に等身大の日本を理解してもらいたい」と話した。
 今回の無償提供は、日本政府が実施している対中政府開発援助(ODA)の文化無償資金協力の一環で、中国側が一昨年に申請していた。総額は3540万円。(北京・共同)

ODAといってもいろいろあるのだと改めて思いますね。それにしても中国の人たちは「プロジェクトX」を見て、どんな感想を持つのでしょうね。

フューチャー・ポジティブ―開発援助の大転換

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