!Ya Basta!(もうたくさんだ!)

黒い覆面をかぶった男は自らが行っているムーヴメントについてこう言いました。

「テロ襲撃を決して行ったことがなく、人を暗殺したこともなく、爆弾を仕掛けたことも決してない武装運動です」(p.66)

マルコス・ここは世界の片隅なのか―グローバリゼーションをめぐる対話

マルコス・ここは世界の片隅なのか―グローバリゼーションをめぐる対話

メキシコ南部のチアパス州に勢力を持つ『反政府』組織、サパティスタ民族解放軍(EZLN)[注:日本語サイトとしてはこちらこちらなどがあります]の副司令官マルコスの言葉です。「真の司令官、それは人民である」がために、彼はEZLNの副司令官という階級についています。そして黒い毛糸の覆面帽子をかぶった姿は、先住民である自らが、現代のメキシコにおいて忘れ去られた人間であるなかで、自らの顔を覆い隠すことによって社会に認識されるという転倒した現実を表しています。

彼は、現代の世界を「第四次世界大戦」が始まっていると言います。それは、「グローバリゼーションの影響を被っているものとグローバリゼーションを推進しているものとの対立」を表します。そしてそれは「国歌を越えた権力」=「金融資本の権力」によって支配されているのだと説明します(pp.39-40)。そのグローバリゼーションの進行によって起こっていることは、「ありうる世界の将来をも民営化する」、人々の「生命の民営化」であると言います (p.52)。

それに対抗する市民の動きのひとつとして、彼は自らの先住民の権利を求める戦いをメキシコ国内で様々な方法(インターネットなどの利用も含む)で行うと同時に、オルタナティヴを生み出すあり方にも注目します。彼は言います。

「なすべきことは次のようにしてかみそりの刃先を広げることです。すなわち、グローバリゼーションとその一切の蛮行を指示するのかそれとも民族主義的、宗教的な原理主義とその一切の暴力を支持するのかという形で2つの極端な道だけが唯一の選択して提起されるのを阻止して、グローバリゼーションに対する世界の進歩的運動の前進を可能にするような場を切り開くことが必要なのです」(p.65)

EZLN、そしてマルコス副司令官は「自由・民主主義・正義」という言葉を用いて自らの方向性を示します。そうです。それらは民族主義的なものでもなんでもなく、普遍的な原理・原則を唱えています。「見せかけでない対話に基づく平和」(p.91)を求めて、「政治の『市民化』」(p.101)によって作り上げていこうとする姿は、僕たちが求める社会と変わりありません。

メキシコ南部チアパス州の森の奥深くで黒の目出し帽をかぶってジッと見つめるマルコスの紡ぐ言葉が国境を越えて僕の体にしみいるのは、それだからなのでしょう。