政治と経済の一体化。社会(市民)の排除…APEC会合@チリに見る

 ビジネスの前に戦争をーーこれはナオミ・クラインの言葉でした。イラクでも、アフガニスタンでも、そしてスーダンでも同じような姿が垣間見えます。それに敏感に反応したのが、今日からチリのサンティアゴで始まったアジア太平洋経済協力(APEC)です(マスコミ報道また日本政府の"APEC"の訳語の最後には"会議"という言葉がついていますが、英語にはそうした言葉はありません)。そして、チリを中心として世界のNGOもまたその行方に大きな関心を持っています。

 APECに関しては外務省のページを参照して頂ければ大体の概要はわかると思いますが、手短にまとめてみます。

 APEC は、アジア太平洋地域の16ヶ国が参加するフォーラムです。1989年11月にオーストラリアで第1回閣僚会議が開かれたのを初端に、今回のチリで16回目を数えます(1993年のシアトルから首脳会議が加わりました)。域内の貿易投資の自由化・円滑化、そして経済・技術協力を主な活動内容とし、 9.11米国同時多発テロ以降はテロ対策も主要な課題として議論されるようになりました。活動に関わる経費は主に参加国の分担金によって賄われており、日本はアメリカとならび最大の拠出国です(約60万ドル。全体の18%)。

 今回のチリでの会議の協議内容は1日目は安全保障問題(テロ対策、大量破壊兵器の不拡散、感染症対策など)、2日目は経済問題(構造改革原油高、WTOFTA)とのこと。とりわけ後半の経済問題に関して、現在交渉が止まり、新しいラウンドへと進むことが出来ていないWTOこと世界貿易機関の後押しと、APEC域内でのFTA構想…つまりは、貿易の自由化を巡る問題です。

 改めてざっとAPEC関連の資料や記事を見渡してみて初めて、今頃気付いたのですが、経済人の集まり、「APECビジネス諮問委員会(ABAC)」(事務局:フィリピン)は、首脳会議・閣僚会議との間に対話をする場所があるということです。ABACの関連組織は日本にもあり、ABAC日本委員会というものが作られています(事務局は経団連)。この民間人の集まりである ABACが、域内経済、そして世界経済への政策作りに深く関わることを「対話」は意味します。

 ABACはAPEC域内でのFTA構想などを提言していますが、ABAC日本委員会の委員のひとりである本田の元社長で現在特別顧問をしている川本信彦は、毎日新聞のインタビューで次のように発言しています。

「各国ごとに交渉していては大変な手間のかかるFTAを全体で締結し、早く貿易・投資の自由化を進めようというのが提言の考え方だ。」
 経済人として発言をするということが悪いというわけではありません。問題は、彼の発言は単なるひとりの個人/市民、というだけではなく、唯一民間の立場で APECと向き合えるABAC委員という立場である以上、「公的」な性格を持つということになるということです。しかし、それにもかかわらず、彼の発言にはそうしたものはありません。あるのは企業人としての拡大した企業益でしかありません。

 こうした政治と経済の超接近…ネオ・コーポラティズムとも言えるかもしれません…がもたらす問題こそが現在の世界が抱えている問題ではないのか?と思えて仕方ないのです。イラクで今まさに起こっていること、それが今行われているAPEC会合のなかにも見え隠れします。

 そしてそれに敏感に対応しているのが、NGO・市民のアクションという形で表れます。2001年1月にブラジルのポルトアレグレで行われた「世界社会フォーラム(WSF)」以降、世界各地(地域・国・地方などさまざまなレベル)で開催されている動きもそのひとつです。チリでは、APEC会合に合わせて、チリの200の市民団体が連合して「チリ社会フォーラム」(リンクはスペイン語です。読めません…)が開催されています。

 19日夜のブッシュ大統領のチリ到着に合わせて彼らは2〜4万人規模で、米主導の経済のグローバリゼーションとイラク戦争に反対するという意味合いを持つ「反APECデモ」がありました。日本でも複数のメディアで報道されているのでご覧になった方も多いかもしれません。(例えば、毎日新聞朝日新聞産経新聞、CNNなどの記事を参照してください。)

 報道によってさまざまですが、このデモは4日間連続で「チリ社会フォーラム」主催で、政府の認可の元で行われたデモで、APECが「途上国を置き去りにした大国主導の経済のグローバル化に繋がる」とし、また「ファシストのブッシュはテロリスト」などというアピールと共に行われたものでした。しかし、デモ行程の最後の方で50人ほどの覆面姿のグループが乱入したことで、警察とデモ、またその過激派グループの間で衝突が起こったようです。

 詳細を伝えているのはCNNやロイターなどで日本のメディアはほとんどがこうしたものを渾然一体として「デモ=過激派」という決まり切った形で報道しています。ABACの委員への対応と「チリ社会フォーラム」へのメディアの対応に大きな違いが浮かび上がってきます。政治家と違い、どちらも政治的な意味合いで僕たちの信任を受けているわけではないのですが、この違いは何を表すのでしょうか。

 政治と経済の一体化。これは改めて僕たちが考えるべき問題として改めて浮上してきていることを実感する出来事です。APECは21日まで続きます。この動きには敏感でいたいものです。