借金はどうする?〜イラク債務を巡る問題

 「イラクの復興」といえば、今の日本では「自衛隊」というのが、ひとつの認識になってきつつあるような気がします。もちろん、自衛隊は「日本」というものを「形」でアピールすること、しかもアメリカ、もっといえばブッシュ政権に対してアピールすることという意味合いでは上手くいっているのでしょうが、実際には多くの人が言っている通り、成功しているとは言えないでしょう。(例えば『論座』9月号の綿井健陽さんの現地報告などを参照してください。)

 他にも「復興」にむけてさまざまなことが国家レベルで行われています。無償資金援助15億ドルを含む、総額50億ドルの政府開発援助(ODA)を出す日本を初めとした援助もそうですし、現在、会合が行われている「パリクラブ(主要債権国会議)」での公的債務削減交渉もそれに当たります。

 パリクラブで話し合われているのは、いわゆる「イラク債務」と呼ばれるものです。これまでイラクに行われた先進国を初めとした国々、国際機関から行われてきたイラクへの援助のなかで債務となってしまった多額の返済負担を軽減しようという交渉です。イラク「戦争」によって破壊され尽くしたイラクにおいて「債務=借金」を返済するというのは困難なことです。そのため、総額1200億ドル以上といわれる公的債務のなかで、パリクラブに属する19ヶ国のなかで、この問題にどのように向き合うか?ということがテーマになっています。

 この債務を巡る国際社会の駆け引きの中心は米英vs仏独露の対立でした。米英はイラク復興のために90%以上の債務の帳消しを求め、仏独露はイラクが持つ原油資源による返済が将来的に可能として、50%程度の債務帳消しを提案していました。日本はそのちょうど間の70〜80%を提案していたと言われます。(例えばこちらの朝日新聞記事を参照してください。)この対立はイラク「戦争」を巡る国際社会の対立を反映しています。イラクへの武力行使を強く押し進めた米英と、それに憂慮を示していた仏独露の対立です。

 米英は一気にイラクの債務の帳消しを行うことでイラク復興のスピードアップを図ろうとしました。それは言わずもがな、国内世論に向けたアピールでありパフォーマンスでもあります。これ以上、米英の負担を増加させまいとする姿を国民に見せることで国内からの批判に対応したいと考えて不思議ではありません。一方、「石油」という財源を持つイラクに対して、アフリカ諸国に置いてさえ、十分な債務救済が行われていない現状で優遇することへの不満があります。
 結果的に両者の間で妥協がなったのは、米独の財務担当大臣による交渉でした。結果的に段階的に80%の債務削減へと向かうことで基本合意し、その後ロシアを初めとしてパリクラブの19ヶ国の合意へと進められているようです。

 その「三段階の債務削減」は以下の通り。
 (1) 即座に全体の30%の削減
 (2) 国際通貨基金(IMF)が策定したイラク復興の改革プログラムを前提に30%を削減
 (3) プログラムが順調に伸展した場合に20%に削減

 ここで目につくのが(2)(3)の内容です。IMF世界銀行による経済政策といえば、「構造調整プログラム(SAPs)」です。この政策は国の特殊性がどうであるにも関わらず、グローバル化される世界経済システムの中に組み込むために、自由化経済政策を遂行させることを目的としています。80年代以降、このプログラムSAPsが進められて成功した国というのはあるのかどうかさえ疑問であると言われています。それは国有化された産業が民営化されるなど「規制撤廃」が特徴的です。この構造調整プログラムによって500万人の命が奪われたとする数字もあげられています。

 民営化された企業が、世界の自由市場の元で貪欲に利益を求めるというのが正しい姿だとすれば、何が起こるか?ということはイラクアフガニスタンの復興経済のなかにアメリカを初めとする先進国やそれを裏で動かしているかのような多国籍企業のあり方を見ていれば分かることでしょう。それこそ、「ビジネスの前に戦争を」という姿が生まれるわけです。

 債務帳消しを求めるのは確かに必要です。しかし、パリクラブで採られようとしている政策・方法には大きな問題があるように思えてなりません。このパリクラブの方法をアラブ諸国で多くの債権を持つ国々が追従することになります。具体的にどのような形で行われるのか?ということをきちんと見ていく必要がありそうです。