被災国と債務問題〜パリクラブ会合を受けて

スマトラ島沖地震津波被災国への国際社会の支援の形のひとつである、債務支払い猶予(モラトリアム)について、パリクラブ(主要債権国会議)で12日にパリ財務省で話し合われました。結果は、先日のG7財務相会議での結論を踏襲する形となり、インドネシアスリランカセイシェルの3ヵ国の総額約33億ドルの公的債務を対象として債務支払い猶予が認められました。猶予期間は、世界銀行IMFがこれからまとめる復興資金需要計画を参考に検討されることになりますが、1年間になるのでは?と言われています(パリクラブNEWS(英語)また共同新聞など)。

この3ヵ国の対外債務が官民合わせて、インドネシアが1300億ドル超、スリランカが96億ドル、セイシェルが5億6000万ドルということで(BBCより)、その内の公的債務のうち、インドネシアが約30億ドル、スリランカが3億2800万ドル、セイシェルが約500万ドルが支払い猶予となるようです。これは即時で無条件に行われるとのこと(読売新聞など)。

一方、同じく津波の被害を受けたインドやタイは今回の猶予を「国の信用に関わる」として申請しなかったために含まれていません。被災国13ヵ国で対外公的債務残高2550億9000万ドル(2002年)に及ぶなか(申請をして)猶予が認められたが上記の3ヵ国でした(毎日新聞)。

インドやタイのように申請しなかったのは、現在の国際金融市場における国の信用を守るためだと言います。それにより、今後の市場からの資金調達に大きな影響を与え、例え調達ができるとしても金利が増えるなどの負担が大きくなるためだと言います。また今回パリクラブが「債務支払い猶予」までの決定しかできなかったのは、そうしたことも影響して今後の被災諸国の「自立」を妨げる可能性があるからだとのこと(共同通信)。

この「自立」というのは、日本が行う政府開発援助(ODA)、とりわけ円借款(有償資金援助)のなかで使われる「自助努力」に通じるものがあります。これはいわゆる"「借りたものを返す」という姿勢がない限り国の自立はない"というもので、考え方自体には頷けるところもあるのですが、実際、先進国のなかでも異常なくらい高い借款の割合と、現実に借款が行われている地域での様々な社会・環境的問題、また返すことが不可能な形での借款のあり方を見てみると、この考え方を出す以前に、援助する側の姿勢が問題とされるべきでしょう。付け加えれば、自助努力という言葉は、本当に援助が必要なところに支援が届き、その人たちが人間として最低限の生活を送れるようになったとき、そしてそこで経済が動くようになったときに初めて使える言葉だろうと思います。また現在の国際金融市場における国家の信用という問題においても、その判断が絶対視されていることには疑問を呈する姿勢があっていいのではないか?と思います。

しかし、一方で、上記の共同通信の記事にあるように、

英国やドイツなどの欧州諸国は、直接的な支援実施を求める国内の世論などを背景に、二月の先進七ヵ国財務相中央銀行総裁会議で債務削減を各国に提案する意向。

とのこと。この辺りは世論の影響を受けた政府の判断をどのように判断するか?で意見は異なってくると思いますが、実際にはイギリスは今年のG8でアフリカ支援を議題の中心のひとつにおこうとしていますので、その辺りとの兼ね合いはあります。

毎日新聞ではその辺りに触れられていて、欧州はアジアに持つ債権が小さいということが書かれています。しかし、そのあとアフリカにおける債務帳消しor削減へと進めようとするとき、日本のアフリカに持つ債権の小ささと比べるとそこへの影響は少なくありません。

それ以上に、日本が債務の削減or帳消しに対して及び腰になっているのは、その記事にあるように「債務削減に応じれば、援助対象国が帰って困る場合が出てくる」というようなことだけではなく、日本の債務帳消しスキームの問題(「債権放棄した国には新規貸し出しをしない」など)や、さらにはスハルト期のインドネシアへの円借款に代表されるような問題の多い援助による問題が露わになるからではないのか?という疑問は未だに消えません。インドネシアに行ってきた日本のODAの問題については後日改めて書きます。

最後にパリクラブの声明の最後に「(世銀・IMFの)査定、そして被災国との協議において、パリクラブの債権者は、どのようなさらなるステップが必要であるかを考える予定である」と示しています。2月のG7財務相中央銀行総裁会議に向けて、国際世論の高まりがこれを支援することもまた事実だと思います。