「世界最大の人道危機」の解決にむけて

先週26日、スーダンダルフール地方西部の町シャンギルトバヤでスーダン政府軍が空爆を行い、約100人が死亡、また翌27日には北部の北ダルフール州の州都エルファシェルでも空爆があり、100人近くが死傷し、数千人が避難したそうです。前の週にも別の場所で空爆が行われこちらも100人ほどがなくなったといいます(毎日新聞ロイターなど参照)。

入門国際刑事裁判所―紛争下の暴力をどう裁くのか (GENJINブックレット (29))

入門国際刑事裁判所―紛争下の暴力をどう裁くのか (GENJINブックレット (29))

2003年2月に始まったダルフール内戦では、政府・アラブ系民兵(ジャンジャウィド)と、反政府勢力との間で衝突が繰り返され、昨年4月には停戦協定が合意され、また11月にはダルフールを政府軍旗の飛行禁止区域にすることなどがまた合意され邸増したが、もはやこの合意は有名無実化しつつあり、協定の遵守を監視しているアフリカ連合(AU)の監視部隊がこの被害状況を調査しようとしても、スーダン政府がこれを拒んでいるのが現状です。

こうした状況にコフィ・アナン国連事務総長は、スーダンに対する制裁を検討するように国連安保理に対して要請を行いました(UN NEWS CENTER内の記事)。アナン事務総長はスーダンに対する制裁は「今なおテーブルの上にある(shuld still be on the table)」とし、その必要性について言及しています。もともと昨年7月、9月に制裁案が国連安保理に提案されていますが、スーダンの石油に大きく関わっている中国の影響で決議されないままに今を迎えています。ここでも「石油」を巡る問題解決の回避が起こっています。

以前、ブログでも紹介したスーダンと中国と石油の問題についてのレポートなど出している、国際人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」は、1月中旬に年次報告書『HRW World Report 2005』を出し、ダルフールにおける「世界最大の人道危機」といわれる大量虐殺を行ったスーダン政府を国連安保理によって国際刑事裁判所(ICC)に対して告発すべきだと書きました(毎日新聞)。しかし、安保理においては上述のように中国が石油利権に絡んで反対し、またアメリカはICCの活用に否定的であることから容易ではない現実もまた指摘しています。

一方で、アメリカは、安保理ではなく新しい戦犯法廷の設置によってダルフールで起こっている問題に取り組む姿勢を見せているようです。安保理での制裁決議(武器禁輸措置、戦犯容疑者の移動禁止/資産凍結)とともに、ダルフール問題に関する裁判所の設置も含めて採択を模索しているといいます(ロイター)。もちろん、これも上に書いたようにICCの設置を拒むアメリカの採る姿勢です。アフガニスタンやイラクなどでアメリカがやってきたことを捌かれるのが余程怖いのでしょう。(上のHRWの年次報告書にもアブグレイブ刑務所のことなどが書かれています。)

人道的な問題を政治的・経済的に解決するだけでなく、刑事裁判所で「責任」を巡って解決する、それもダルフールに限らず、世界のあらゆる問題を公平に捌くことができる機関であって初めて、抑止力も含めて、解決への道筋を開くことになるのでしょう。これは、前にブログで欠いたナチス・ドイツの行ったことと、日本が戦時中に行ったことの間の態度の差異と似ています。「東京裁判」が一方的だったと後に異論が出されるように、その場限りの法廷の危うさもまた感じるのも事実です。

さて、ダルフールの問題は、2月にナイジェリアのアブジャで和平交渉が再開される予定になっていますが、現状では難しいことが予想されるのは、僕だけではないでしょう。日本がこれらにどのように向き合っていけるのでしょうか?人道支援は続けつつ、スーダンへの経済制裁を行うというのは、仕方のないことなのかもしれません。北朝鮮では安易にすべきではないと思うけれど。