パレスチナの難民と和平

最近、NGOの来年度の事業の関係から「難民」という言葉にすごく敏感な自分がいる。昨日…というより、今朝もずっとその事業の企画書+αをパソコンとにらめっこしながら作って、少し寝て起きて仕事に行ってまた今度はそれを「魅せる企画書」に変えるべく(笑)ドタバタと夜まで作業をしてました。あ、その間に大学に来年度の休学届けを提出しに行きました。大学院掛の人に「また新聞出てたでしょ」なんて軽口を叩かれながら、あっさりと受理されて少し拍子抜けでしたけど。

夜のニュースで報じられている通り、パレスチナイスラエルの間で和平合意が結ばれましたね。1947年の国連パレスチナ分割決議採択以降、翌年の第1次中東戦争から始まった対立に終止符が……ということになればいいのですが、こうしたことを何度も繰り返している今、夜のニュースでトップに報じられなくなってしまいました。もちろん、それで関心を失ってよいはずもなく、だからこそ、もっと注意してみなければなりません。今後の行く末を。

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パレスチナには、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)がおかれています。上で書いた第1次中東戦争後に、パレスチナ難民に対して救済事業プログラムを実施するために設立されました(1950年活動開始)。上記ウェブサイトに英語・スペイン語と並んで日本語のホームページがあることからも、UNRWAに日本が大きく関わっていることが分かります(日本語サイトができたのは一昨年10月のこと。しかし文書の多くはPDFファイルです)。

現在、パレスチナには420万人以上の難民がいると言います。当初は90万人余りだったといいますから、その数は4倍以上に増えていることになります。言わずもがな、この「パレスチナ難民」が生まれる以前は、ユダヤ人こそが難民でした。そのユダヤ人の難民問題を解決するために取られた方法が、国連総会における英国委任統治パレスチナの分割による新しいユダヤ国家の建設でした。そしてそれは悲しいことに新たな難民=パレスチナ人を生みだしたのです。

現在、「難民」への支援というと、緒方貞子さん(現JICA理事長)が10年間トップを務めていた国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が頭に思い浮かぶでしょうが、それ以前に作られたのがこのUNRWAです。つまり、第二次世界大戦直後の世界における「難民」問題は、現在多く語られるアフリカやアジアではなく、ヨーロッパで起こっている問題だったといえます。難民問題全般を扱うUNHCRと、パレスチナ難民問題を扱うUNRWAはこうして生まれました。

河辺一郎氏が「2つの難民機関」(『軍縮問題資料』1995年9月号)で書いていますが、あとからできたUNHCRの規定には、「他の国連機関または組織から保護または援助を引き続き受けている者」は活動対象から除くという規定があります。難民条約において「締約国は、難民に対し、人種、宗教又は出身国による差別なしにこの条約を適用する」と書いているにもかかわらず、です。つまり、UNHCRの規定に書かれている除外されるもの=パレスチナ難民であったわけです。

UNRWAのウェブサイトにある「Q&A」では、UNHCRとの違いを次のように説明しています(PDFファイルへの直結リンク)。

UNRWAとUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)は、共に難民に対する特別な任務を行うよう国際社会から委託された国連機関です。UNRWAは特にパレスチナ難民と彼らの置かれた特別な政治状況を扱っています。区別をつけた主な理由の一つは、UNHCRが難民に対して行うように委託された三つの選択肢の中にあります。すなわち、現地統合、第三国定住、母国への帰還という選択肢です。

UNHCRの管理下では、この中の一つが難民によって自主的に選択されなければなりません。最初の二つの選択肢はパレスチナ難民と難民受入国にとって受け入れられるものではなく、最後の選択肢はイスラエルにより拒否されているため、いずれの選択肢も、パレスチナ難民にとって実現性があるものではありません。このため、国際社会は国連総会を通じ、問題の政治的な解決がなされるまで、人道支援を提供し続けるようUNHCRに求めているのです。

つまり、UNHCRの委託された活動はUNRWAの活動に合わないということですが、上に書いたように、その成り立ちを考えてみると当然とも言えます。

世界中には2000万人以上の難民がいます。それらが求めているのは安心して生活を送ることがdけいる場所です。もちろん、心の拠り所としての民族/国家にそれを見ることもあるでしょうが、そうした難民一人一人のことを、世界中で考えなければならないと改めて思います。アメリカなど先進国の思惑ではなく、そうした人たちの生き方を一人一人が考えることだと改めて思うのです。

エリア・スレイマンが、パレスチナの不条理な日常を描いた映画「D.I.」で、自ら隣家へゴミを投げ捨てた男と、それを投げ捨て返してきた主婦とのやりとりを最後に。


ゴミ捨て男「なぜ、うちにゴミを投げ入れる?恥を知れ」
主婦「言っちゃ何だけど、おたくのゴミをおたくに返してるのよ。」
ゴミ捨て男「恥ずべき行為に変わりはない。隣人は敬い合うべきだ。文句があるならなぜ言わない?そのために舌があるんだろ?」
映画「D.I.」でわかるおかしなパレスチナ事情

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