ハリケーン「カトリーナ」と米国の貧困

改めて国際社会は相互依存関係、いや相互扶助関係のなかに置かれていることを実感する。下のエントリーにも書いているアメリカのメキシコ湾岸を襲ったハリケーンカトリーナ」による被害は甚大であり、ドイツや日本、また南米のベネズエラホンジュラスなど20ヵ国が支援を表明している(ロイター)。また一般企業などからも義援金が届いており、米国企業からすでに1億ドル以上、日系企業トヨタが500万ドルと巨額の義援金を拠出。また有名人も100万ドル以上の寄付を相次いで表明しているという(読売新聞)。そうした支援金額の総額はスマトラ島沖地震津波被災地へのそれを大きく上回るペースだということで、当初、「世界の保安官」たるアメリカはこうした他国からの支援に消極的であったものの(ブッシュは「アメリカは自分の面倒は自分でみられる」という姿勢だった…)、今では「あらゆる支援を受ける」と表明しているという。

ハリケーンの直撃を受けたルイジアナ州のピロクシ。一帯を中心に死者は数千人に上るという情報もある。マスコミなどで報じられている通り、生と死が交差する一帯の状況はまさに「非日常」である。水浸しの生活圏を漂う死体。衛生状態が極端に悪く、ライフラインも壊滅状態。まさに人間が生きていくことができるかどうかの狭間にある。もしかすると、共和党ブッシュ政権支持者が多いといわれる南部地域では、その様子がイラクを想像させているかもしれない。

イラクといえば、上の画像にある通りメキシコ湾だけではなく湖にも囲まれたこの地域の被害は、治水事業の大幅な削減による事業の滞りにあるとの指摘もある。地元メディアでは「イラク戦争とテロ対策を優先する連邦政府が関連予算を減額させた」という担当者のコメントを掲載しているという(共同通信@Yahoo!ニュース)。そんな中、100億ドル規模の緊急支出を議会へ要請し、被害の復旧・救援活動を行うことをブッシュは言明したが、大型ハリケーンがやってきているにもかかわらず休暇を過ごし続けていたブッシュへの支持率は低下しているという(実際、ブッシュは救援活動に遅れがあったことを認めている−毎日新聞)。一方、ニューヨーク株式市場は、原油の高値からエネルギー関連銘柄が、また復興のために建設株が買われているようだ(朝日新聞)。

被災地は混乱状態が続いているようで、治安が悪化している。テレビカメラの前でも堂々と店舗から物品を盗む映像が流れていたが、ライフラインが停止している中、病院などでは病人への対処に支障が出、病状悪化が深刻化しているという。またそれだけではなく、病院までもが略奪の標的になっており、銃撃を受けたりもしているという(毎日新聞)。実際、そうした治安の悪化に対して、米政府は州兵4200人の追加派遣を決定。ブランコ・ルイジアナ州知事は「戦闘開始」を宣言し、武装集団を射殺することをも辞さない方針を明確にしている(毎日新聞)。

奇しくも、31日、米国商務省は家計調査を発表した。そのなかで、国内貧困層が前年より110万人増えて3700万人に上ることが明らかにされた。景気拡大が続く一方で、雇用の回復が遅れたことが原因だという。総人口に占める貧困層の割合である貧困率も12.7%に上るという(日本経済新聞)。数字の上では好景気にわく裏で起こっている国内の格差の拡大。テレビのニュースでコメンテーターの某が強奪が行われると報じられるアメリカの様子を前に「日本ではこんなことは起きないですよ」なんて飄々と口にしていたけれど、この国だって景気が上向き…とされつつも、その数字は大企業・金持ちへの恩恵にしか過ぎないことは明らかだ。実際、国内の格差もどんどんと広がっているのだから。

来週土曜日はこのブログの右上にもあるように、世界の貧困問題を考えるキャンペーンのホワイトバンドデーにあたる。「アフリカやアジアの貧しい国の人たちを…」なんて口にする背後で、こうした構造的な問題によって厳しい状況に置かれている人たちも数多くいることはしっかり認識していていい。もしその姿が見えないのであれば、キャンペーンをする資格もないだろう。黒柳徹子的貧困認識はもはや的はずれで、何も益たるものを生まない。複雑な構造的な世界を以下に俯瞰して見て、考えることができるか?ということがまさに今求められていると思うのだ。