「民主かイスラムか」?〜UAEで初選挙へ

 こんな記事があった。

アラブ首長国連邦(UAE)のハリファ大統領は1日、国会に当たる連邦評議会(定数40)の半数を対象に選挙を行う方針を明らかにした。・・・中略・・・国政レベルでは史上初の選挙となるが、政府当局者はロイター通信に、参政権を与えられるのは人口約400万人のうち、約2000人にとどまるとの見通しを表明。・・・中略・・・人口の約8割が出稼ぎなどの外国人という事情も「有権者」が少人数に限定される理由の一つだ。(毎日新聞

最初、この記事を読んだとき、選挙で選ばれていない国会(=連邦評議会)、参政権を持つのが2000人だということ、そして8割が外国人だということだった。ただ、よくよく考えてみると確かに納得できるものがある。いわゆるイスラム教国であるUAEにとって、イスラム教自体が厳然とした一つのまとまりある法体系を持ち、これこそがまさに「国」である。言葉を換えれば、現在の国際社会における「国家」は、イスラム教国、とりわけ中東の国々にとってそれこそがイスラム法に反しない範囲に限定されることになる。逆に、アジアの「民主的」なイスラム教国は、インドネシアの例を見るまでもなく、民族主義を前面に押し出したナショナリスト(=スカルノ大統領派)による民族運動によって、「民主的」な位置づけを得たわけだ。

UAEは、名が現す通り、1971年から72年にかけて、7つの首長国(Emirates)によって作られた連邦国家であり、現在の大統領はアブダビ首長国の首長が、また首相はドバイ首長国の首長が務めている。国会にあたる連邦国民評議会(Federal National Council)も各首長により任命されている(外務省)。それでも400万人にも満たないUAEの人たちは、男性76歳/女性81歳という高い平均寿命のなか、石油収入がその殆どをなす経済の中で、1人あたりGDPは2万ドル近くある。911以降、アメリカを中心として「民主的」な政府を求める国々が軍事力を背景にアフガニスタンイラクを責め立てたが、中東にはこうした国が多いのだ。

もちろん、中東諸国にも変化が徐々に起こっているのも事実で、バーレーンでは女性の参政権が認められたり(ロイター)、クウェートオマーンカタールでは国政選挙、またサウジアラビアでは地方選挙の実施も行われたり予定されたりしている(日本経済新聞)。そうした流れを受けてのUAEの決定ではあるだろうし、日経によれば「同国にとっては初の選挙。UAEはドバイを中心に経済自由化で急成長を遂げており、民主化の前進や政治安定をアピールして外資誘致を拡大、発展を加速させる狙いとみられる」ということでもあるようだ。

何にしろ、「イスラム教」という、信者にとっては「近代国家」よりも大切な心情に対して世界がどのように向かい合い、付き合っていくか?ということは、簡単な話ではない。少しでも多くの市民の意見が採り入れられたり、反映される仕組みが作られることは望ましいが、それは強者(軍事的/経済的)の論理によってではないことは言うまでもないし、何より「民主的」であるか、それともイスラム的であるか?などという二者択一には何の意味もない。