市民と国家〜イラク戦争と民間人の拘束

ノーコメントで成田を飛び立った防衛庁長官は、今日にこやかにサマワ自衛隊宿営地で笑っていた。そして「十分な安全確保策をとっている。治安は比較的安定しており、自衛隊の人道復興支援活動が引き続き重要である」との談話を残し僅か5時間弱のイラク視察を終えた(日本経済新聞)。自衛隊派遣の1年延長を来週にも決定する政府が「治安安定を印象づけるため」の視察だったが、それなら成田でノーコメントで通さずに「サマワにいってきます!」と言っていけばいいのにね。

相変わらずイラクでの被害者(国を問わず)の数があがらない日はないと言っていいくらい、2年半を越える"戦争"後のイラクは混乱している。米軍は来年規模を削減するという方針に言及し始めたが(毎日新聞)、それは「逃げ」とも思えるような混乱の最中にあることには何ら変わりはない。もちろん米国民はそのことを察していないはずもなく、世論調査で「米国がイラクで勝利できる計画をブッシュ大統領が持っていない」とする人は55%に上り、またイラク問題への対応も54%が良くないと言っている。ただ「察して」という言葉を使ったように、それでもまだ米軍は目標達成まで撤退すべきではないとする人が6割いるということには変わりはない(共同通信@Yahoo!ニュース)。言うまでもなく、中東の人々から見ると、さらに米軍に対しては辛辣な目を持つ。

米国の大学と調査会社が中東6ヵ国で行った世論調査では、イラク戦争によって中東の平和が「むしろ損なわれた」とする回答が8割を超えたという。昨日のエントリーではないが、米国による中東和平もまた「民主化が本当の目的とは思わない」とする意見がほぼ7割であり、石油やイスラエル保護などをあげる人が多かったという(共同通信@Yahoo!ニュース)。多くの人がそう答えたから正しい・・・というわけではもちろんないが、国際協力などとまさに同じように、その地域に住む人たちの声を反映しない「支援」というものはありえるはずがない。また米国の利権にまつわる背景を中東の人たちが訝るのもあながち的はずれではないかもしれない。米国では、ネオコンによるフセイン政権とアルカイダの繋がりをことさら大きく取り上げるような情報調査があったのではないか?という調査が始まっていたりもするのだ(共同通信@Yahoo!ニュース)。

そうした影響がまさにイラクに住む人たちに直接的に起こっている。爆撃を受け被害を被る現地の人はもちろんだが、イラクで支援活動を行う人たちやNGOへも深刻な影響を与えている。ここ数日でも、29日には医薬品を運ぶ人道支援を行ってきたドイツ人女性が誘拐されたし(毎日新聞)、その前26日には欧米の人道支援NGOクリスチャン・ピースメイカー・チーム(CPT)」のメンバー4人が武装勢力によって拘束された。CPTの活動はウェブサイト「Falluja, April 2004」(その書籍が上の写真の『ファルージャ、2004年4月』)などでも紹介され、ファルージャの状況を彼らの活動から知った人も多いかもしれないが、彼らがその被害者となっている。

国家・政府は国際社会において、大局的に物事を見て判断しなければならない役割にあることはわかる。しかし、それらはまた我々市民の存在あってこそ存在することもまた忘れてはならない。社会にそぐわないと憲法を見直すことは大切だが、見直すのはあくまで日本に住む僕たちの役割であり、彼らはそれを遵守し、またそれらに規定されるものであることを忘れないでいて欲しいというのもまったく同じ視点だが、どうにも最近は国家や政府が必要以上に大きな役割を担おうとし、またになわされているように思えて仕方がない。

最後に、上に書いたドイツ人女性やNGO関係者など、不幸にも誘拐・拘束された人たちが無事帰ってくることを心から願っている。