ODA有識者会議メンバーってこれでいいの?

郵政民営化改革でお金の入口について改革を行ったから今度は出口・・・という具合に進められている政府系金融機関の改革。大方、ひとつに統合される(それ以外は民営化または廃止)という状況の中、一つだけ取り残されているのが、政府開発援助(ODA)を取り扱う国際協力銀行(JBIC)だ。金融系はともかく、「貸すODA」=円借款を行う海外援助系の収まりどころをどこにするか?ということで政府と外務省との間で駆け引きが行われている。政府側はODAの一元化のためにJICAの事業も含めて首相直轄のODA庁という構想も出てきた。

ODA庁」というのは実のところNGO側がこれまで創設を求めてきたところではあるのだが、ちょっとばかり様子が違うのは、「国益に適った戦略的なODA」という方針による首相直属であるという点だ。2003年にODA憲法とも言える「政府開発援助(ODA)大綱」の見直しが行われ、新たなODA大綱においては「国益」が重視されている。この方針に沿う形での首相直轄の援助機関の創設だが、言わずもがなな問題がある。それは、ODAが時の権力者/政府によって恣意的に行われ、また政権が大きく変わると共にその方針や供与体系がガラリと変わってしまうということだ。「開発援助」とは名ばかりの国益実現の道具になるぐらいだったら、いっそ名前を変えてしまえばいいくらいだ。

一方、外務省の言う現在の形の基本的な継続にしても、今度はこちらが「省益」に縛られているということもまた言うまでもないだろう。ここには財務省の「省益」も絡み、まさに政官の争いという姿を現してきている。外務省側は先日、福岡で行われたNGOとの定期協議会の中で出来上がってきたばかりだという『ODAの点検と改善〜より質の高いODAを目指して〜』のコピーを持参してきた(現在は外務省のODAウェブサイトでPDFファイルをダウンロード可能)。外務省の変化の姿勢の現れであり、協議会の中でも時間をオーバーしながら説明をしていたが、どうにもこうしたせっぱ詰まった状況の表れのようにも見える。

政府側は強気に攻めたてており、2日に安倍官房長官直属の有識者会議「海外経済協力に関する検討会」を作ることを発表した(読売新聞。また首相官邸官房長官記者発表ページ12月2日午前参照)。検討会のメンバーは、座長に原田明夫(元検事総長)、その他メンバーに浜田広(社会保険庁最高顧問、株式会社リコー最高顧問)、西岡喬日本経済団体連合会副会長、三菱重工業株式会社取締役会長)、坂元一哉大阪大学大学院法学研究科教授)、葛西敬之JR東海代表取締役会長)、古田肇(岐阜県知事)となっている。これまで外務省の行うODAに批判的だった安倍官房長官が選んだ人材は「中立的な立場から議論してもらう」とはいうものの、かなり偏向しているのは間違いない。

マスコミなどで報じられている通り、JR東海の葛西氏は中国へのODAに批判的であり、技術移転による新幹線の北京・上海高速鉄道建設に対して批判的な言葉を繰り返した。また保守系論壇誌諸君!』にもたびたび登場し、アジア共同体への批判や「国民は祖国を守るために努力しないならば、それは自殺に等しい。」などと寄稿する。もちろん保守系ブログでは大人気だ(大笑)。ちなみに葛西氏は中曽根内閣時の国鉄民営化に際し、中枢ポストに戻ってきた人間でもあるようだ。『諸君!』といえば、最新号にメンバーの阪大教授の坂元氏が登場している。同じ議論に村田晃嗣同志社大教授も参加している(笑)が、村田氏、坂元氏ともにサントリー学芸賞の政治・経済部門を受賞しているが、坂元氏の選評を書いているのが国連次席大使となった北岡伸一氏で、彼を任命したのも小泉内閣と考えると、あ〜そんな風に繋がっているのかな、とか考えたりしてしまう。

その他にも座長の原田氏は法務・検察内部で「永田町派=公安派」と呼ばれる政権中枢と癒着する流れのなかの人間であり、検察庁の裏金作りの内部告発を押さえつけたとされる事件の際の最高件検事総長で、「悪の検事総長」なんて呼ばれていたりするようだし(こちらのサイトなど参照)、三菱重工会長の西岡氏は去年6月まで「ODA総合戦略会議」の委員を務めるなどODAにもそれなりに関わりがあるが、昨年秋には、武器輸出禁止の解除に関して「政府で具体的な検討を進めてもらいたい」という発言を行っていたりする(こちらのサイトなど参照)。三菱重工といえば日本の軍需産業の中心だしなぁ〜とか、そういえばイラクODAで送られたパトカーは三菱製だったなぁとか邪推すればいくらでもきりがないのも事実。ちなみに同じくメンバーの古田岐阜県知事が外務省の経済協力局長だったころ、ODA総合戦略会議で国益重視のODA大綱が作られていて、それを中心的に議論したODA総合戦略会議委員に西岡氏もいたわけだ。リコーの浜田氏は「国民皆農業」というぐらいしかイメージがないけれど、どちらにしろ、こんなメンバーでODAについて議論されるというのはまったくもって困った!!というのは間違いない。

ちなみに、これまでODAについてなんだかんだ言いながら、一人くらいはNGO関係者を入れていたこうした集まりに今回はメンバーとして入っていないのは、やっぱり「円借款」だからなんだろうか。だからこそ、逆に入れたらいいのに・・・と思うのだけど・・・ねぇ。