チャーミングに世界を変える方法

数年NGOに関わっていて強く思うのは、NGOの専門性と先見性の重要性とともに、どれだけその問題を多くの人に知ってもらい、「何とかしよう!」と一緒に思えるか?ということです。この辺りは、NGOの正統性の問題に大いに関わってくる問題ですが、同時に、NGOの求める変化が特殊で特別なものではなく、公共の利益に沿ったものであることの証明でもあるのです。公益、もしこの言葉にある種の「あやしさ」を感じる方がおられれば、私たちが共に必要だと思う利益=共益に沿う社会へと変えるためにも、NGOやその周辺にいる人たちを越えた人たちに「共感」をもって捉えてもらうための努力もまた必要になります。

ここ数年、そうした「みんな」に伝えるために大いなる貢献をしているひとりが、マエキタミヤコさん。「100万人のキャンドルナイト」やホワイトバンドを仕掛けた「ほっとけない 世界のまずしさ」キャンペーンのムーヴメントを生みだしたひとりです。その彼女の本が新書で発売されたのを、たまたま本屋さんで見つけたので購入して早速読んでみました。その本は、『エコシフト (講談社現代新書)』。

エコシフト (講談社現代新書)

エコシフト (講談社現代新書)

彼女が「人類が楽しく生き残るために、自分を変えること、社会を変えること」と定義づける「エコシフト」の考え方を軸に、大手広告代理店での経験を生かして、彼女が世界と向き合ってきたこれまでの経験で肉付けし、サブタイトルにあるように「チャーミングに世界を変える方法」を紹介しています。

個人的にはお会いしたことはないのですが、自分が関わっている活動になかで「100万人のキャンドルナイト」は人間関係的に、またホワイトバンドの方はある程度実際の関わりを持っていることもあって、お名前はよくよく耳にしていました。その手法はやはりNGOの枠ではなかなかできない発想であって、ときには感嘆し、ときには疑問を持つこともありました。しかし、一貫してこの中で語られることを読んでみるとなるほどなぁと思うことも多かったですね。興味深い本です。

同時にやはり改めて考えてしまうのが、たとえば下記のような行です。

「怒っている」という怒りの表現は、人々の注意を引きつける力としては優れています。でも問題を解決するために必要な、みんなの多様な考えや組織のなかで無視されてしまう小さな声を汲み取りにくい、という短所もあります。怒っている人同士で集まると話も合いますが、それが仲間の条件になってしまうとコワイ人たちの集まりになってしまいます。
 また、怒りつづけていると、生活が疲れてしまうし、周りの人間も疲れてしまいます。これは組織や運動自体の持続可能性に関わる問題です。
 本当は弱いままなのに、その運動を威圧的だと感じてしまう人たちがたくさん出てきたら、それは当事者にとっては、やるせないことです。なんでわかってくれないんだ、思いやりがない、とさらに憤りを感じ、孤立感や疎外感を感じてしまいます。(p.129-130)

マエキタさんはこの前の部分で、

理想主義の血塗られた過去
 NGOの活動が急速に世界で評価されつつあったころ、日本では、市民運動や社会貢献、社会問題に取り組もうとする活動すべてに、六〇年安保、七〇年安保と敗北した学生運動の影が落ちていました。(P.110)

と、「政治的」「運動」という言葉に「血の気配を感じるようにな」ったとその不幸で残念な歴史的経緯を紹介しています。彼女が「怒りの表現」である、"いわゆるデモ"に象徴されるような、「怒り」を元にした市民のアクションを否定しているわけではないということはよく分かるのですが、それでも実際に現場に根ざした「怒り」によるアクションをもっときちんと捉えて、「チャーミング」な表現と共に並べて考えることもまた大切なのではないかな?と思います。

個人的には、あらゆる市民のアクションは戦略的である必要があると思っています。しかし、実際に今まさに問題を抱えている人々による感情的なアクションもまた現実的に必要であり、それは多くの場合戦略的でないものが多いとも思います(最近は、その中間の中途半端なアクションも多くなりましたが…ある意味いいことではあるのですが)。その時、外部の人間がもっと「チャーミングに!」といってそれが成立するとはどうしても思えないのです。

マエキタさんの掲げる「チャーミング」なアクションはきっと市民の多くの受け皿としての可能性を大きく強くもっていることは間違いありません。同時に「チャーミングではない」かもしれないけれども、「怒ることしかできない」当事者によるアクションもまたそれを正当に評価し、それぞれの役割のなかで問題解決の方法を探るために考えるフレームワークが改めて必要なのだなぁと思います。それは彼女が何度も書くように「コミュニケーション」の重要性であるのですが、単に「協働」「パートナーシップ」ではない「対立的協働」「対立的コミュニケーション」が成立するための場作りなのではないかな?と思ったのです。

とはいえ、この『エコシフト (講談社現代新書)』がオススメであることは代わりありません。NGOに関心がある人、エコなムーヴメントに関心がある人、そしてNGOをしていながらその広がりの限界を感じている人は必読の一冊ですよ。

ほっとけない世界のまずしさ

ほっとけない世界のまずしさ

『でんきを消して、スローな夜を。 100万人のキャンドルナイト』

『でんきを消して、スローな夜を。 100万人のキャンドルナイト』