僕たちの生活と戦争〜田中優『戦争って、環境問題と関係ないと思ってた』

国防総省が、「9.11」、米同時多発テロで、ハイジャックされたとされる旅客機がペンタゴンに激突したところを録画していたビデオを初めて公開しました(毎日新聞)。これは、アメリカのNPOである「ジュディシャル・ウオッチ」が行った情報公開によって明らかになったものです。ペンタゴンの2台の監視カメラによって撮影されたもので、わかりにくいですが、ひとつまた「9.11」の、ある側面から見た事実が明らかにされました(映像はこちらで見ることができます)。もはやすでにわかっている通り、その後のアフガニスタンからイラクへ、そして今イランへと続けられようとしている『戦争の連鎖』が大きな間違いであり、このような「戦争」という解決手段はとるべきではないのですが、実際、僕達がその呪縛から逃れることが十分にできていないのは時がたつにつれ徐々に思いとして強くなっています。「戦争」が良くないことだということはわかっていながら、それでもなおその戦争をやめようという行動に繋がりにくい現実はどこにあるのか?ということを改めて考えます。

最近出版された、田中優さんの『戦争って、環境問題と関係ないと思ってた (岩波ブックレット)』(岩波ブックレットNo.675)には、戦争と私たちの生活の密接な関わりについて平易な文章で丁寧に書かれています。今、日本に住む僕たちは「常に傍観者の視点」であると優さんは書きます。しかし、果たして本当に単なる「傍観者」なのだろうか?と具体的な事実・事例を挙げながら、読者にわずか70ページほどのブックレットの中で提起するとともに、「どうしたらよいのか?」ということまで具体的に踏み込みます。

例えば、イラク戦争の理由のひとつ、しかし非常に重要な要素としてやはり「石油戦争」であるという側面を挙げます。米英の開戦理由がもはや「言いがかり」に過ぎないことが報道などを通して明らかになっている今、誰しもこの側面についてはイメージすることができるかもしれません。この「石油」という側面をもう少し広げて見てみると、そこには「戦争をカネに変える」という世界の姿がわかるはずだと、優さんは続けます。

世界の軍事費が年を追うごとに伸び、その大部分がアメリカのものであり、日本の予算の7割近くに当たる金額が費やされています。そしてそれが投資会社や軍事産業を潤し、それらをとおして政治家へと流れていることもまた具体的な数字から明らかにされます。同時に、アメリカの予算の大部分を短期の国債という形で私たちが購入しているものの中に、そして税金の中に含まれていることを紹介しています。

そして話はタイトルにあるとおり、戦争と環境問題のつながりへと移ります。環境保護を声高に求める一方で、戦争に反対することもない人たちは、自ら自分の首を絞めているのではないか?と地球温暖化の問題も含めて、痛烈に批判します。一部、引用してみます。

ぼくらは「敵」なるものから自分を守ろうとして、自分の住む地球という惑星そのものを破壊しようとしているのだ。それは金儲けと一体化したことから、簡単には止められないほどの加速度が付いた。ぼくらがコンビニでレジ袋を断っているころ、どこかの戦闘で、街そのものが破壊されている。ぼくらが省エネのために電気を消しているころ、どこかの実験で地球そのものが破壊されている。ぼくらがリサイクルのために分別しているころ、戦闘機は莫大な石油を消費し、二酸化炭素を排出している。戦争、その準備のための軍事開発を止めずに、何が環境保護だろう。(pp.50-51)

ご存知の方も多いと思いますが、優さんは「じゃあ、どうしたらよいか?」ということを具体的に実行しています。このブックレットでも紹介されていますが、例えばそのひとつがNPOバンクであり、また地球温暖化問題に取り組むNPOです。前者では、市民のお金の適切な方法を探り実行し、また後者では具体的な代替エネルギーについて実践を行っています。そして、それは具体的であるとともに、だからこそ、そこからつむぎだされるこのブックレットの内容にはうなづくところが多いのです。そして優さんはこう書きます。

このカネとエネルギーの使い方という接点で、ぼくらは深く今の社会のあり方に関わっている。カネとエネルギーの使い方を変えなければ、否応なく加害者になってしまうし、それを当然のことと考えてしまうだろう。このままでは奈落のそこに落ち込んでいく。いわばベルトコンベアに乗せられているのだ。(p.60)

前のエントリーで「問題解決」ということのこだわって書きましたが、こうした様々な人が関わることができる機会を提供することができるというのは非常に魅力的であり、同時に説得力があります。改めて師匠(と僕は勝手に呼ばせてもらっていますが―(笑))の優さんの「強さ」を感じます。

このブックレットからさらに読みすすめたいと思われる方には是非、優さんの前著『戦争をやめさせ環境破壊をくいとめる新しい社会のつくり方―エコとピースのオルタナティブ』(合同出版)をお勧めします。基本的にどう内容ですが、より詳しい内容が掲載されています。